日が沈み、鳥も寝床についた頃。
1人の少年もまた床につこうとしていた。
窓を開け、しばし部屋の空気の入れ替えを行う。季節独特の冷たく突き刺さるような風が頬を掠める。しかし、その中に少量の柔らかさがあるのも確かだった。
庭を見れば黄色の花が揺れていた。何処かの国ではとある花がそろそろ見頃を迎えているらしい。なんという花だっただろうか。
そんなことを考えていると扉がキィ、と音を立てて開いた。
「まだ起きていたのかい」
目をやれば、そこには同居人の姿があった。
「お前も同じもんだろ」
と、いつものように返す。心なしか、自分の声まで和らいでいる気もした。季節の所為か「気持ち」というものの所為か。
「もう春が来るんだ、はやいものだね」
気がつけば同居人は隣に来て、同じく庭の花を見ていた。
「今度の新作は外国の花をモチーフにしようと思うんだ。独特な味でね。今日買い物に行って気に入ったから材料を早速取り寄せようと思う」
「へえ、じゃあ明日からに備えてまた早起きか。嫌いじゃねえが、いかんせんやる気がでねえもんだ」
目を輝かせる同居人にやる気のない返事を返す。のんびりした時間だ、キライではない。
「まあ、そういうことだからあんまり夜更かししたり風邪引くようなことしちゃダメだよ。これ、置いていくね」
そう言って同居人はマグカップを置いて部屋から去っていった。
マグカップに入った液体が月の光をうけて揺れていた。
窓を閉め、マグカップに口をつける。甘い。独特の香りとはこのことか、と気づく。
「たしかに美味い。人気はでるかもな…」
ひとりごち、飲み干してからベッドに入る。暖かく、良い夢が見れそうな気がした。
眠りの淵で「そうか、桜か」と花の名前を思い出した
2020/05/19 擱筆